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冷静と情熱のあいだ Blue
角川書店
辻仁成
新しい百年に恋するすべての人に捧ぐ...
男と女。それぞれの視点で紡ぐ、ひとつの恋。
「どうしたの?」
芽実がぼくを覗き込む。そっと抱き寄せる。芽実は腕の中でおとなしくしていて動かない。
感づかれたくなかった。遠い過去から早くぼくは飛び立たなければならなかった。
芽実を抱きしめたまま一回転し、今度はぼくが上になって、
彼女の形の良い薄紅色の唇にキスをした。
すっかり萎縮して窪んだ唇は花の蕾のようだった。
ぼくは自分自身を鼓舞するようにその唇に執拗に口づけた。
「いいよ、無理しなくて」
芽実が唇を一度ぐいと噤んでみせた後、素早く言った。
「無理なんかしてない」
そう言ってぼくは芽実の体にゆっくりと覆いかぶさった。
芽実の手が伸びてきてぼくの頬を包み込む。
引き寄せられ彼女の唇が今度はぼくの唇を吸ってきた。ぼくたちは長いキスを交わした。
吸いついては離れ吸いついては離れ・・・・・・・・・
もう一度抱き合った後、芽実は裸のまま窓辺に立った。
夜空を見上げる彼女の後ろ姿をぼくは美しいと思った。
彼女には恥じらいはなかった。どこも隠そうとはしない。
そういえば最初から光のもとでばくたちは抱き合った。
あおいが決して暗がりでしか求めなかったのとは達う。
イタリア人の血が混じっているその見事なプロポーションを自慢しているわけでもない。
彼女は肉体だけでなく心もいつもさらけ出していた。
「パパに会いに行こうかなって思うの」
芽実を見つめるために体を起こした。
室内灯の光を受けて陸の表面が仄かに輝いている。
「ミラノまで?」
「そうよ」
「やっと決心したんだな」
「そう、いまのこの膠着した気分を打ち破るには取り敢えず何か行動を起こす必要があったから」
ぼくは、へえ、と思わず呟いてしまった。芽実はぼくに背中を向けた。
「ミラノまでついてきてくれる?」
ベッドから下りると芽実の横まで歩いた。
彼女の横顔を覗き込んだ。略い瞳の中で微かに光が灯っているのが確認できる。
秋風は心地よさの中にも若干芯があり、頬を強く撫でるのだった。
「第4章 秋の風」より
「冷静と情熱のあいだ」
全国東宝系にてロードショー
主演●竹野内豊/ケリー・チャン
音楽●ENYA
切ない気持ちなんだけど、何故か懐かしい風が吹いてくる......
そんな物語です。
1400円(税別)
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