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霧の向こうに住みたい
河出書房新社
須賀敦子
ISBN4309015298
のこされた29のエッセイ!!
《心に残る荒れた風景のなかに、ときどき帰って住んでみるのも、わるくない。》
「霧の向こうに住みたい」より
☆☆☆
須賀敦子さんの御本を読んでいると、どうしてだろう、雨が降っている気分になる。いつも。
没頭して頁をめくり、知らない街の古い石畳や行き交う人や、愉しげな食材店や季節ごとの
木々や、注意深く綴られる誰かの横顔にひきこまれ魅了され、ふと本を離れると、私は
東京の片隅の小さな自分の部屋にいて、窓の外は雨が降っている。部屋の中が随分暗い。
もう夕方なのだ。電気をつけることさえ忘れていた。そういう気分になるのだ。だからたとえば
外が張れていたり、そもそも夜で、ちゃんと部屋の電気がついていたりすると、間違った場所に
帰ってきたような気がする。あわてて本の中に戻る。するとまたやがて、おもては雨がふっている、
としか思えない気配に、しっとりと包まれる。雨の日の読書が特別なのは、私の個人的な記憶
や事情なのだろうか。多くの人に共通する何かなのだろうか。
後者のような気がするが、はっきりとはわからない。
雨の日の、閉じ込められる感じとうす暗さ、物がみな境界線を曖昧にし、
植物や家や家具といった、普段言葉をもたないものたちが俄然生気を帯びる
あのひそやかさ。書物の内側と外側、は、雨の日にはほとんど地続きになる。
ある種の書物を繙くことは、雨の日を繙くことだ。
須賀さんの書かれるエッセイは、一つずつがぽつんとある宝石みたいな物語だから、
読む者の窓辺に一種の遮蔽幕をおろすのかもしれない。
(本書 江國香織さんの解説より)
筆者紹介
須賀敦子(すが・あつこ)
1929年兵庫県生まれ。聖心女子大学卒業。1953年よりパリ、
ローマに留学、その後イタリアに在住し、1961年ミラノで結婚。
数多くの日本文学の翻訳紹介に携わる。夫の死後、1971年帰国。
上智大学比較文化学部教授。『ミラノ 霧の風景』で、1991年
講談社エッセイ賞、女流文学賞受賞。1998年逝去。
主な著書に、『ミラノ 霧の風景』(白水社)、『コルシア書店の仲間たち』
『ヴェネツィアの宿』(文春文庫、白水社)、『遠い朝の本たち』(ちくま文庫)、
『ユルスナールの靴』(河出文庫、白水社)、『時のかけらたち』(青土社)、
『本に読まれて』(中公文庫)、『イタリアの詩人たち、(青土社)、
『地図のない道』(新潮文庫)『須賀敦子全集(全8巻・別巻1』(河出書房新社)など。
主な訳書に、N・ギンスブルク『ある家族の会話』『マンゾーニ家の人々』(白水社)、
『モンテ・フェルモの丘の家』(ちくま文庫)、
A・タブッキ『インド夜想曲』『遠い水平線』『逆さまゲーム』
『供述によるとペレイラは・・・・・』(白水社)、『島とクジラと女をめぐる断片』(青土社)、
I・カルヴィーノ『なぜ古典をよむのか』、『ウンベルト・サバ詩集』(みすず書房)など。
霧の向こうに住みたい 河出書房新社 須賀敦子
1200円(税別)
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